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夢を見た。
たしぎは、海の中にいた。
上を見上げれば、水面に光が差して、キラキラと輝いている。
その眩しさに、目を細め、下を向く。
足元には、薄暗い海底が見える。
白い砂が、ぼうっと分かる程度だ。
さっきから、水中にいるのに、息が全然苦しくない。
だから分かる、これは夢だと。
海中の潮に、揺られながら、ゆっくりと沈んでいく。
少しずつ、水が冷たく、光が届かなくなる。
とんと、足先が、海底の砂に触れ、
そのまま、ぺたんと、座り込む。
誰もいない場所。一人きり。
静かに目をつぶる。
不意に浮かんでくる、ロロノアの顔。
唐突に、あなたは、もう居ないのだと、思い知る。
********
頂上決戦の後、麦わらの一味は消息を断ってしまった。
海軍本部が総力を挙げて、捜索しているが、行方が掴めない。
シャボンディ諸島の騒動で、バーソロミューくまに飛ばされたという話だけは
伝わった。
あの戦いの場で、確認されたのは船長のルフィ一人。
他の乗組員達は、誰も居なかった。
*********
もう、私の側に居なくてもいい。
追うなと、言ってくれてもいい。
ただ、生きてさえいてくれれば、それでいいから。
両手で顔を覆う。
あふれる涙をどうすることも出来なかった。
温かい涙が、冷たい海に溶けていく。
たしぎは声を上げ、愛しい人の名を呼ぶ。
自分の泣き声も、呼ぶ名前も、聞こえない。
あらん限りの、大声をあげ、泣き続ける。
もう、どうなっても構わない。
このまま、崩れてしまいたい。
海の藻屑となって、あなたにたどり着きたい。
声なき、泣き声が海の中を響きわたる。
*******
自分がどこに居るのかさえ、わからなくなっていた。
ぎゅっとつぶっていた瞼を開けると、そこは、まだ、暗い海の底だった。
もう流れる涙も枯れ果てた。
出せる声もない。
たしぎは砂に手を着いて、ゆらりと立ち上がる。
その指先に、当たる固い粒。
拾い上げ、見てみると、それは一粒の真珠だった。
薄暗い海底で、ぼうっと微かに光を放っている。
真珠の涙と人はいう。
これが私の涙というなら、この悲しみと共に、此処に置いていこう。
たしぎの手から、真珠がこぼれ落ちる。
ゆっくりと足元に沈んでいく。
頭の上を見上げると、まだ、微かな光が水面を照らしている。
とんっと、海の底を蹴って、浮上する。
ゆっくりと、身体が軽くなる。
たしぎを取り巻く水の色が、紺青色から、アクアブルーへと変わっていく。
ふと、底を見下ろすと、白い輝きが霞んで見えた。
さよなら、私のナミダ。
ザバンと水面に顔を出すと、明るい満月が辺りを照らし出していた。
澄んだ光の眩しさに目を閉じる。
再び目を開けると、自分の部屋に居た。
やっぱり夢だったんだ。
目をつぶると、真珠のほのかな輝きが甦る。
もう泣くまい。涙は、あそこに置いてきた。
〈完〉