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「責任を取るって、こういう事だったの?」
射るような目つきで、スモーカーを真正面から見据えるのは、ヒナ。
腕を組んで、サングラスの奥の瞳は憂いを含んでいる。
ゆっくりと煙草を取り出して、火をつける。
ふぅっと小さく煙を吐くと、視線を落とす。
スモーカーは冷めたコーヒーを一口啜り、
上目遣いにヒナを見上げる。
そして、諦めたように身体を起こすと、背もたれに深く沈み込む。
「あぁ、そういう事だ。」
じっとヒナを見つめる。
「・・・ヒドイ男。馬鹿よ、あなた。」
「あぁ、わかってる。」
「わかってないわよ、何にも!」
ヒナは立ち上がると、コップの水を、スモーカーの顔に浴びせかける。
振り向きもせずに立ち去るヒナを、スモーカーは、濡れたまま動きもせずに、見送る。
その目に、姿を焼き付けておくかのように。
******
スモーカーとたしぎは、任務以外でも一緒にいるらしい。
そんな噂が、囁かれ始めたのは、数箇月も前になるだろう。
誰も非難する者はいなかった。
同じ船に居るもの同士、自然な成り行きだろうと。
ここは、G5。 海軍本部が2年前の頂上決戦で、壊滅的なダメージを受けた
マリンフォードの海軍本部を新世界に移した新たな拠点だ。
麦わらの一味が行方をくらましてから、すぐにスモーカーの部隊は
この新世界へと異動してきた。
必ず、奴らは現れると、信じて疑わない二人を筆頭に。
新世界での任務は、激烈さを極めた。
スモーカーの身体には、無数の傷跡が白く残っている。
寄り添うたしぎは、スモーカーの懐刀と呼ばれていた。
ようやく新世界でも、ましな任務をこなせるようになったのと、
二人の噂が流れた頃と、同時期だったかもしれない。
ヒナは、グランドラインで、その噂を耳にした。
スモーカーの後を追うように、ヒナは異動希望を出していた。
しかし、その希望は叶えられずグランドラインで、苛立ちながら任務にあたっていた。
どうしたいのか、自分でもよく分からなかった。
噂の真偽を確かめてどうする。
最後に会ったのは、その噂を聞く少し前、新本部での会議でだった。
ヒナは、スモーカーの姿に息を呑んだ。
想像以上に激しい任務の為か、痩せて、眼だけがギラギラと光っていた。
その晩、共に過ごした。
愛しい人を、慈しむように、傷を癒すように、抱いた。
その苦しみを少しでも、軽くできるのならと。
スモーカーも応えてくれた筈だと、確かに感じたのに。
たしぎにも会った。すこし伸びた髪が、大人びた雰囲気を感じさせた。
弱音を吐くまいと、気丈に振る舞っていた姿が痛々しかった。
「ヒナさん、大丈夫ですよ。ここで、この新世界で、待ち構えて必ず、捕らえます。」
以前聞いた、麦わらの一味の剣士を追っているという噂は、
本当だったのだろうか。
かける言葉が見つからなかった。
「身体壊さないでよ。」とだけ言って船を後にした。
「お前の、居場所はねぇぞ、ここには。
おとなしく、グランドラインにいてろよ。」
赴任早々、スモーカーに言われた言葉に、二重に傷ついた。
そして、今日、はっきりスモーカーの口から、
たしぎと寝たと告げられた。
自分の船に戻り、部屋に入った。
ドサッと深く椅子に、身体を投げ出す。
煙草に火を点けたかったが、唇を噛みしめてないと、
声をあげて、泣き出してしまいそうだった。
目をつぶる。
今日会ったスモーカーは、顔色も良く、少し安心した。
これも、たしぎのおかげなんだろうか。
スモーカーを解ってあげられるのは、自分だと思っていた。
何も解ってなかったのだ。
噛みしめた唇をほどくと、自嘲の笑みを浮かべる。
らしくないわ。
さっと髪を掻き上げると煙草に手を伸ばす。
煙と共に、を全て吐き出した。
だから、決めた。
私も、逃げない、ここから。
居場所がなくともいい、ここに居る。
ヒナの見据えた先には、得体のしれない海が嘲笑うかのように広がっていた。
〈完〉