[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2
次の日の夜、たしぎの分のヘルメットをシートに着けて、
大学へ向かった。
七時じゃ、会場に着く前に、花火大会が始まってしまうじゃねぇか。
そう思いながら、門に着くとたしぎが構内から手を振ってゾロを呼ぶ。
「ロロノア~、こっち、こっち。」
近づいて、バイクのエンジンを切る。
「花火見に行くんじゃねえのか?」
「はい。だから、学校で見るんですよ。」
いつもの場所にゼファーを置くと、たしぎのあとをついて行く。
たしぎが向かった所は、たしぎのゼミの教室がある棟の屋上だった。
「へぇ、こんなとこ、入れんのかぁ。」
「鍵が壊れてるんですよ。教授達も知らないし、誰もこんな所来る人もいないし。」
「ここから、よく見えるんですよ。」
たしぎが、立った場所の向こう側の空に、パッと花火が上がる。
だいぶ遅れて、ドンと小さく音が聞こえた。
「あ、始まりましたね。」
遠くから眺める花火は、小さくて御殿まりのように可愛らしかった。
たしぎは、時折、あっとか、わぁとか、声をあげて嬉しそうに眺めている。
「ほんと、花火、大好き。綺麗だなぁ。」
うっとり、眺めながらたしぎが呟く。
柵にもたれ掛かりながら一緒に見ていたゾロが応える。
「そんなに、好きなら、会場まで行って見りゃいいだろ。」
「一度、会場まで行ったことはあるんです。でも、すごい人混みで、
くじけて帰って来ちゃったんですよね。」
「いいんです。私は、ここから、ゆっくり見ている方が・・・」
「そんな最初から諦めてたんじゃ、手に入るもんの入らねぇ。
案外、花火の真下に絶好の穴場って、あるもんだぜ。」
ゾロは、今日たしぎを連れて行くつもりだった場所を思い浮かべながら、
ぶっきらぼうに呟く。
「・・・・」
たしぎは、下を向いて微笑んだように見えた。
行く気があるなら、オレが連れてってやる。
そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
顔を上げたたしぎの大きな瞳が濡れているように見えた。
遠くの花火が、瞳に映っている。
そのまま、何も言えなくなって、ゾロは遠くの花火に目をやった。
屋上は、風がよく通り、昼の暑さを忘れさせてくれた。
たしぎは何もなかったかのように、感嘆の声を上げている。
その様子に、ゾロは少しホッとする。
少し間隔があいた後に、空が明るくなるくらい連続で花火が上がり、
そして、一際大きいのが上がった後、静かになった。
「終わったようですね。」
前を見つめたまま、たしぎが口を開く。
「あぁ。」
ゾロも、前を見たまま、頷いた。
「ロロノアの言う通りですね。」
そう言いながら、ゾロの方に向き直り、見つめたたしぎの瞳は
もう、濡れてはいなかった。
「私、夏休みが終わったら、もう一度、スモーカーさんに
会ってきます。」
「・・・そうか。」
ゾロは、そう答えるだけで精一杯だった。
*****
たしぎを送り、自分のアパートへ戻ったゾロは、
何もする気にもなれず、テレビをつけた。
音を消した画面からは、外国の映画が映し出されている。
あいつとスモさんとの間に何があったのか、
オレには解らねぇ。
あいつは、まだ、好きなんだ。
わかってた筈だ。
最初から。
何だよ、この歯がゆさは。
モヤモヤした想いが、自分自身を苛立たせる。
たしぎがあの日、帰り際に言った言葉が、繰り返し思い浮かぶ。
ゴメンね。
どういう意味だよ。
はっと気づくと、時計は午前4時を指している。
全然眠れたような気がしない。
ふーっと、大きく息を吐いて、立ち上がる。
テレビを消すと、部屋を出た。
何も考えずに、いつも通り準備をして、
人気のない街へと、走り出した。
朝日を浴びたかった。
そうすれば、自分が何をしたいのか、何を望むのか
分かるだろうと。
〈完〉