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ゾロのアパートに向かう途中、コンビニに寄り、弁当を二人分買った。
カゴの中にひと通り買う物を入れると、
ゾロは財布をたしぎに渡した。
「なんか、必要なもんあったら、買っとけ。」
と言うと先に店を出た。
たしぎは、少し迷って、歯ブラシを買った。
部屋に着くと、まずは弁当で腹ごしらえをした。
そして、一緒に買ったロールケーキで誕生日を祝った。
「お誕生日、おめでとうです。ロロノア。」
「あぁ、ありがと。」
特に祝うつもりでもなかったが、改めて言われると、
なんだかくすぐったいような、照れくさい気がした。
「お前の分も、一緒に。」
「あ、ありがとう。」
たしぎは、少し赤くなった。
二人で、小さなケーキを半分ずつ食べた。
話したいことも沢山あった筈なのに、たしぎは上手く話せずに、
二人でテレビばっかり眺めていた。
どうしちゃったんだろ。
「オレ、シャワー浴びてくるな、汗かいたし。」
「あ、はい。」
ゾロは、そう言うと立ち上がり、風呂場へ消えていった。
一人になって、少しホッとする。
なんか私、緊張してる。
しばらくして、風呂場のドアが開いた気配がし、
ゾロが出てきた。
たしぎのすぐ側を、バスタオルを腰に巻いたまま通り過ぎると、
引き戸を開け、隣りの部屋に入っていった。
あまりの衝撃に、たしぎは固まって動けなくなった。
ガラッと戸が開いて、Tシャツと半パン姿のゾロが現れた。
「わりぃ、いつもの癖で、何も用意しないで、風呂入っちまった。」
バスタオルで頭をゴシゴシ拭いている。
冷蔵庫に向かうと、中から缶ビールと取り出して、
立ったまま、飲み出す。
「お前も、飲むか?」
「いえ、だっ、大丈夫です。」
「?」
「どうした?何か変だぞ。」
「いえ、だ、大丈夫です。」
「・・・何だよ、さっきから、変だぞ。」
「そ、そんなことないです。」
たしぎは、テレビから視線を外さずに答える。
そして、唐突に、
「あ、やっぱり、お風呂借ります。」
と言うと、バタバタをゾロの前を通りすぎると
風呂場へと消えていった。
バスタブに湯をためながら、座り込んで下を向く。
まともにロロノアの顔を見ることが出来ない。
ロロノアは全然普段通りだし、私ばっかり、変なのかな。
この胸を締め付けられるような感覚を、
どうしていいのか分らないまま、お湯に浸かっていた。
居間の方からガタガタと物音が聞こえ、自分が随分長い間
風呂に入っていたことに気づいた。
いけない。
手早く、風呂場から出ると恐る恐る居間を覗く。
テレビはつけっぱなしで、テーブルの上にメモが置いてあった。
着替えある
おやすみ
見ると、テーブルの横には布団と上に着替えのTシャツとパーカー、
ジャージがたたんで置いてあった。
「ロロノア?」
隣りの部屋に向かって声を掛けたが、返事はなかった。
もう、眠ってしまったんだろうか。
またロロノアに気を遣わせてしまったようだ。
無理もない。
私、変だよ。
自分でもよくわからない。
ゾロが用意してくれた着替えを着ると、
水を一口飲んだ。
はぁ~~っと、大きく息を吐くとテーブルにぺたっと
頬をつける。
テレビ台の下には、CDとDVDが並んでいる。
どんなの聴いてるのかな。
バイク雑誌も置いてある。
横の棚には、パソコンと、教科書と、少しの文庫本。
シンプルで、すっきりした部屋。
ここで、ロロノアは生活してるんだ。
心地よい部屋。
******
ガラッとゾロの寝ている部屋の戸が開いた。
「ロロノア!」
戸を開けたのはたしぎだった。
四つん這いになったまま、ゾロの様子を伺っている。
「ロロノア、眠れません!」
眠れないのはゾロのせいだと言わんばかりに
布団を引きずったまま、ゾロに近づく。
「ねぇ、ロロノア!」
ゾロの肩を揺すって起こそうとする。
ゾロは夏用のタオルケット一枚にくるまり、
耳にイヤホンをつけて丸まるように眠っていた。
やっぱり、布団ひと組みしか無かったんだ。
これじゃあ、風邪ひいちゃいますよ。
「ロロノア?」
イヤホンをはずそうとしたとたん、
ゾロがガバっと起き上がった。
「なっ、何だよ!どうした?なんかあったのか?」
もの凄く、驚いた顔をしている。
「一人じゃ、眠れないんです。」
たしぎは、困ったように訴える。
暫く黙ったまま、たしぎを凝視していたゾロが
ふと居間に目をやると、テーブルの上にビールの缶が転がっている。
「飲んだのか?」
「だって、ロロノア、先に寝ちゃうんですもん。」
「そ、それは、お前が・・・」
ダメだ。酔っ払っている。
「お布団掛けないと、風邪ひいちゃいますよ~。」
にこやかに、布団をゾロの上に掛けると、そのまま抱きついた。
「うわぁ、あったか~~い。」
「ちょっ、ちょっと待てよ。おい。まずいだろっ!」
焦りまくるゾロに構いもせずに、たしぎは猫のようにスリスリと身体を寄せる。
「これで、やっと眠れそうです・・・」
嬉しそうに、ゾロの胸を枕にして目を瞑る。
「おやすみなさい・・・」
「おいっ!どけよっ!」
いくら言っても、たしぎは、動こうとしなかった。
そして、気持ちよさそうに寝息をたて始めた。
「卑怯じゃねぇか・・・」
固まっていたゾロは呻いて、諦めたように身体の力を抜いた。
「これじゃあ、何されても文句言えねぇぞ、おい。」
そっとたしぎの頭を撫でた。
天井を仰いで、目をつぶったまま、たしぎの温もりを感じていた。
思い出す。酔っ払ったたしぎが、ゾロの部屋を訪ねて来た時の事を。
あれから、少しはお前の中に、オレの占める場所は増えただろうか。
そして、むくっと起き上がると、たしぎを起こさないように
身体を退ける。
布団を掛けなおしてやると、ゆっくり立ち上がった。
何もしねぇって言ったからには、手は出せねえしな。
頭を二三回振ると、自分の頬をピシャッと叩いた。
眠れねぇのは、こっちだろ、まったく。
ゾロは、少し早すぎるランニングに出かけた。
********
たしぎが目を覚ますと、時計は午前10時を指していた。
うわぁ、もうこんな時間。
あれ?なんで、私こっちの部屋に居るんだろう。
やけに頭が重く、眠れずに冷蔵庫から缶ビールを出して
飲んだことを思い出した。
這うように居間に移動すると、ゾロがもう出かけてしまったことに気づく。
テーブルの上には、部屋の鍵とメモ。
鍵はこの次会った時でいい
メモと一緒に交通費ほどのお金が置いてあった。
次第にハッキリする昨夜の記憶。
たしぎは、ゾロのアパートを出るとバスで駅まで行った。
駅前で、アパートを管理している不動産屋に行き、
部屋を開けて貰った。
「すいません。」
ペコリと頭を下げ、開けてくれた不動産屋を見送って、
自分の部屋に入ると、気が抜けた。
目まぐるしく、いろんな事が起きた一日だった。
仲直り、出来たのかな。
ロロノアは、以前と変わらない様子だった。
いつものように、ぶっきらぼうで、言葉も少なくて、
優しかった。
*****
月曜日に大学へ行くと、
すぐに教授を訪ね、研究室から荷物を持ってきた。
中身は、なんともなかったし、プレゼントもそのままだった。
昼休みにゾロの携帯に電話をかけた。
「あの、金曜日はありがとうございました。
・・・いろいろとご迷惑おかけしました。」
ブッと電話の向こうで、吹き出す気配がした。
「お前、ほんっと・・・」
くっくっと笑っている。
「あ、あの、ごめんなさい。」
焦る。
「荷物あったか?」
「はい。」
「よかったな。」
「あの、お金も返したいし、お礼も・・・」
「・・・ん、そんじゃあ、映画でも行くか。
この前、言ってたろ。まだ、有効か?」
「も、もちろんです!」
「じゃ、決まり。」
たしぎが返事をする前に、唐突に電話が切れた。
驚いて、かけ直そうとしていると後ろから声がした。
「何観るか、決めとけよ。」
振り向くと、携帯を片手にゾロが立っている。
にやっと笑って、もう片方の手に持ったコンビニの
袋を掲げる。
「プリン、一緒に食うか?」
たしぎは、思い切り頷いた。
降り注ぐ弱い陽射しが、急に暖かく感じる。
落ち葉を散らす風ですら、たしぎを笑顔にさせてくれた。
〈完〉