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ゾロは、坂道を登り、見晴らしの良い東屋にたどり着いた。
そこからは、眼下に街全体を見渡せて、目の前には青い海が広がっている。
風もさわやかで、ほのかにミカンの香りが気持ちよかった。
太陽が傾き、島全体が蜜柑色に染まっていく。
ゆっくりと、漂うように空気に身をまかせる。
ガキの頃は、よく夕焼けになると、稽古を止めてこんな風に眺めていたっけ。
暖かな時間。
ナミが太陽の香りだとは、ルフィもよく言ったもんだ。ぴったりだな。
ふと、目を開けると東の空に昇りかけの月が白くひっそりと姿を現していた。
今夜は、半月か。
ざっ、ざっ、と人が登ってくる気配がする。
音の方向に目をやると、黒い髪が現れた。
この夕焼けにも染まらない、漆黒の艶。
たしぎだった。
坂道を上がってきて、少し息が早い。
ゾロを認めると、しばらく何も言えずに立ち止まっていた。
「なっ、なんで、こんな所にロロノアがいるんですかっ?」
「それは、こっちの台詞だろ。」
「わ、私は、景色を眺めようと、思って・・・」
「オレも同じだ。」
そのまま、たしぎなど居ないかのように、海に目をやる。
どうしていいか、わからず、たしぎは、そのまま少し離れた場所に腰を下ろした。
夕日は、ほとんど海に姿を消し、空だけが最後の輝きを惜しむように、
赤く染まっていた。
たしぎの目には鮮やかな夕ばえは映っていなかった。
今日の午後に、見かけた情景が目に浮かぶ。
ロロノアは、海賊で、私は海軍。
変えることのできない、この現実。
二人の距離は、永遠に縮まらないような気がした。
半月がやっと、白い輝きを発する頃、ゾロが声を掛ける。
「寒くねえか?」
はっとするたしぎは、思わず口に出していた。
「な、何で、ロロノアに心配されなきゃいけないんですか?」
「?」
「 一度、抱いたからって、全て思い通りになるなんて、思わないでください!
どうせ、同情だったんでしょう。」
一瞬、ゾロが苦しそうな顔をしたように見えた。
たしぎは、心とはウラハラの言葉を、どうすることも出来なかった。
それ以上、ゾロを見ていることができずに、背を向け、
逃げるように坂道を駆け下りていく。
港に近づくにつれ、たしぎの歩みは遅くなる。
ロロノアが、あんな顔するなんて。
刀傷一つ負わせられないというのに。
ひどい女ですね。
立ち止まる。見上げれば、半分欠けた月が
柔らかい光を落してくれていた。
ロロノアに会わないと。
たしぎは、踵を返すと、今来た道を戻りだす。
もう、いないかもしれない。
でも、こんな気持ちのままじゃ、きっと後悔する。
〈続〉