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ゾロは夜のとばりの中、変わらずに腰をおろしていた。
月の光が、海を照らし、静かに街に降り注ぐ。
その冷たい光が心地よかった。
下の方から、再び人の気配がする。
ゾロには、もう分かっていた。
また、あの濡れ羽色の髪の女が、息を切らして登ってくることを。
「はぁ、はぁ・・・」
たしぎが険しい顔で、目の前に立つ。
「まだ、居たんですね。」
「ああ、月がきれいだ。」
ゾロの視線に促され、空を見上げる。さっきと同じように、柔らかい光に包まれる。
その顔を、ゾロはじっと見つめている。
見つめられていることに気づき、たしぎは何も言えなくなる。
「・・・あ、あの、わたし・・・」
「オレに会いに来たんだろ。」
そう言って、極上の笑みをたしぎに向ける。
なんで、この男は、こんなに余裕なんだろう。
急に、憎たらしくなる。
私が、こんな思いで、やって来たというのに・・・
返事もせずに、
たしぎは、肩に掛けていた黙ってバッグの中から、
小さな箱を取り出し、ゾロの前に差し出した。
「これ、あげます。」
それは、きれいなオレンジ色のリボンがかけられた白い箱だった。
「今日、買ったんです。・・・食べてください。」
「ん。食いもんか?ありがてぇ。」
ゾロは、箱を受け取ると懐に入れる。
「じゃあ、私はこれで。」
くるりと背を向けて、登ってきた坂を下りだすと、
ゾロも、腰を上げる気配がする。
「な、なんですか?」
「オレも、戻る。」
「ついて来ないでください!」
「ああ。」
たしぎの後ろをゆっくりと歩くゾロ。
二人、話す訳でもないが、心地よかった。
ガサガサと音がするので、後ろを振り返ると、
ゾロが歩きながらさっきあげた箱の中身を出しているところだった。
「今、食べるんですか?」
「ん、腹がへった。」
たしぎがあげたのは、オレンジピールをチョコレートでコーティングした
シンプルなものだった。
「ん、うめえ。」
「気に入ってくれましたか?よかった。」
たしぎが、微笑む。
「ほれ、一本やる。」
「あっ、私の分も、ちゃんと買ってありますからっ。」
慌てて断るが、ゾロの気遣いが嬉しくて、
差し出されたチョコを、手にして口に入れる。
「ん、おいし。」思わず顔がほころんでしまう。
「私、これ好きなんです。この時期しか、売ってなくて。」
すっかり機嫌がよくなったようだ。
気がつくとすぐ隣りにゾロが立っていた。
ゆっくりと、抱きしめられたその胸に、黙って顔を埋めた。
ゾロは、たしぎの頭をポンポンと軽く撫でると、黙って船の方へ促す。
たしぎも、その意味は分かっている。
もっと、言いたいことがあったのに、
言葉にならない想いを抱え、その場を離れる。
たしぎが船に消えるのを見届けて、ゾロも仲間の待つ船へと歩きだす。
言葉なんか、いらねえ。ただ、そこに、居てくれるだけでいい。
*******
「やっぱ、あんた迷子になってたんでしょ!」
船へ戻るなりナミに怒鳴られた。
「まったく、心配ごと増やさないでよねっ!」
「余計なお世話だ!」
「ま、いいけどね。」機嫌のいいナミは、笑って許す。
「おら~~、ナミさんに口ごたえすんな!クソ野郎!」サンジが怒りながら、食事の支度をする。
「冷めちまったじゃねぇか。」
「悪ぃ。」素直に詫びるゾロに、怪訝な視線を送る。
「なんか、悪いもんでも食ったか?」
側にいたチョッパーが、クンクンと鼻をならして、
「ゾロ、オレンジとチョコの臭いがするぞ。うまそうだな。」
「あら、チョコもらったんだ。」ナミが、意味ありげに笑う。
「ゾロは、月見してたんだろ。」ルフィが風流なことを言うと、
「今日は、なんかえらく詩人だわね。ルフィ、大丈夫?」ナミが片眉を上げる。
「なんか、ごちゃごちゃうるせえぞ、お前ら。」
「あら?眼鏡の海兵さんとデートだったんでしょ。」さらっとロビンが言ってしまう。
思わず、こめかみを押さえるゾロ。
「ロビンは留守番だっただろ。何で・・・・テメーかっ、ナミッ!」
「だめよ、ロビン。もうちょっと楽しめたのに~。
きゃ~~~、ルフィ~~。ゾロが、暴れる~~~!」笑いながら逃げ回るナミ。
「さっさと、メシ食っちまえ、クソマリモ!」怒鳴るサンジ。
「じゃあ、男前の剣士さんの分、チョコいらないかしらね。」思案するロビン。
「おれ、その分食うぞ!」チョッパー。
「今日のナミは、ご機嫌だなぁ。って、やめろ、お前ら。」
笑って眺めているうちに、ウソップは、ゾロとナミの追いかけっこに巻き込まれる。
ルフィは、そんな様子を見て、しししと笑っている。
月見の余韻に浸る間もなく、賑やかに夜が更けていった。
〈完〉